『Too many people』
私が7月に投稿した記事のしめくくりには、不起訴後のASKAが発表した『Too many people』への期待と不安を記しつつ、
「それについては、それから約2ヵ月経ってわかるのである」
なんて、次回の更新ではこのアルバムの感想を書きますよ〜といわんばかりの伏線を敷いた。
それから2ヵ月あまりが経ってしまった。
今年の2月。
このアルバムの発売日に、Amazonから届いたアルバムを正座せんばかりに聴いた時のことを思い出してみよう。
それはもう、大変な緊張ぶりだった。
事件以降ASKAが作る音楽を聴くのは「FUKUOKA」ぐらいのものだったので、ちゃんとした曲を作れているのか?という初歩的なところから心配だったわけ。
もしあまり出来のよくない曲ばかりだったら、がっかりだからね。
さて、正座しながら再生ボタンを押した一曲目は、すでにyoutubeで発表された「FUKUOKA」だった。
以前にも書いたようにこれは私の好みの曲調ではないため、緊張はまだ解けないままだった。
やはり動画サイトで聴くよりも、CDで聴いたほうが音の広がりがあるなぁ、ぐらいの感想。
二曲目の「Be free」もすでに動画サイトにあがっているデモを聴いたことがあったので、新鮮さには欠けたが、やはりとても壮大な展開をみせる曲であるため、終わるころには少しずつ気持ちが高揚していたようだ。
このウォーミングアップを経て、そこから三曲目「リハーサル」に入った瞬間。
ギターの音。
イントロからぐっと胸を突き上げるものがあった。
それでもしばらくは押さえ気味にAメロが続く。
ところがサビに入ると、攻めの姿勢に一転する。
逮捕、矯正入院、再逮捕を経てさえも、ぜんぜん大人しくおさまっていないASKAの「俺はまだまだ現役なんじゃコラー!」という叫びが伝わってくる。
アーティスト魂、健在。
不思議なことに、ここで私は涙する。
まったくセンチメンタルな曲調ではなかったにも関わらず。
だが、後にAmazonのコメント欄などで、ここで涙したのは私だけではなかったことを知った。
同じようなメッセージを受け取ったリスナーがいるということは、ASKAの、メッセージを音楽にのせて伝える力というのは、衰えていなかったことが証明された。
アルバムはその後も、楽しい系、切々と訴えかける哀歌系など、豊かな彩りを見せてくれ、ASKAがこの一本に渾身の力をこめただろうことが察せられた。
ただし、前々から私が話題にするASKAの転調について言えば、実はこのアルバムではさほどその楽しみはない。
しかし、逮捕等でファン以外の一般人からも注目を浴びた後に発表する作品では、そういうマニアックな曲調よりも、一般受けのするシンプルなコードを全面に押し出していくほうが正解だ。
「FUKUOKA」しかり。
それを理解しているファンたちは、狙いによってコード展開のTPOを使い分けるASKAの戦略にたいしても、ひそかに賛辞を送ったものと思われる。
少なくとも私はそうだ。
全曲が終わった頃には、すっかり感服していた。
なお、「リハーサル」で涙した私ではあるが、一番好きな曲は「と、いう話さ」。
始まった瞬間、いつものASKAとはちがう声質に、新鮮な驚きを覚えたからだ。
このような試みも、新しい引き出しが一個追加されたようで楽しかった。