再燃のきっかけ
「私とCHAGE and ASKA」シリーズ、前回からのつづき。
彼らの動向を追わないままで20年ほどが過ぎた。
ごくたま〜に新曲をyoutubeで試聴することがあっても、ASKAさん喉の調子が悪いなぁ、曲もあまり響いてこないなぁ、という印象を抱くだけだった。
そして好きだった過去の曲を時折思い出しては聴くだけだった。
それで充分だった、なぜならば私はすでに、自分の音楽の好みを確立し、積極的にお気に入りのアーティストを見つけ出せるようになっていたからである。
CHAGE and ASKAにはまる前には、音楽シーンなど一切知らず、クラシックしか知らなかった私が、ある意味彼らのテイストによって私の中に眠っていた音楽の趣味を掘り起こされたようなものだ。
そもそもクラシックも、転調・不協和音・変拍子が入ったものに惹かれていた。
不協和音といっても、不快感を煽るタイプのものではなく、甘美に心をひっかかれるようなタイプのものである。
CHAGE and ASKAにおいては、とりわけASKAの作る、転調の入った曲に多いにはまったわけだ。
であるならば、他のアーティストにおいても、転調・不協和音・変拍子を取り入れている作品を探せば良い。
実際、世の中にはとても魅力的な音楽があふれていた。
洋楽ならメジャーでもNirvana、Radiohead、Björk等がいた(彼らがメジャーで大人気を博しているのは、洋楽の懐の広さを示していると実感する)。
邦楽ではキリンジ、クラムボン、Fishmans、Polaris、APOGEE等がいた。
インディーズに探索の手を広げれば、それこそあまたの素晴らしい音楽があった。
それらを追って深みにはまっていくと、音楽の楽しみには事欠かなかったのである。
そんなとき、最初の逮捕がやってきた。
2014年5月、ASKAが覚せい剤取締法違反で捕まったのである。
しかし、私の反応は鈍かった。
当然20年も彼らの動向から離れていたので、もうファンという自覚はなかった。
しかも洋楽に慣れきっていたので、衝撃すらなく、「ああ、やっぱり良い音楽を作る人は日本でも薬をやってたりするのかな」ぐらいの感想だった。
愛人報道については、かつてより「僕はこの瞳で嘘をつく」や「HOTEL」なんかを聴いていたので、まあ当然いただろうな、ぐらいの認識だった。
ただ、日本の社会が過剰反応を示し、CHAGE and ASKAのCD等を販売禁止にしたという報道にだけはやや動揺した。
「これはプレミアがつくかもしれんぞ、その前にちょっと買っとこうか」と思い、それまで持っていなかったベストアルバム『SUPER BEST II』を中古で買ったりするぐらいの行動は起こした。
あとは、同僚に「彼らの音楽はやっぱりいいですからね、今のうちにCD買っとかないと、プレミアがついて高額になりますよ」と電車の中で力説していた記憶もある。
同年7月、ASKAが保釈された日は、たまたま近所の病院におり、待合室のテレビで拳を握りしめてお辞儀をする彼の姿を見たことは覚えている。
この時さすがに、窮屈な日本でこういう事件を起こしてしまったからには大変なことになったんだな、という実感がようやくわいたような気がする。
それから再び、忘却の時期がやってきた。
2016年1月9日。あるいは翌日の10日だったろうか。
私が真の意味で衝撃を受けたのは、この日である。
その夜は、週末の夜で、私はごろごろしながらTwitterを見ていたはずだ。
そのタイムライン上に、ASKAとおぼしき人のブログが発見されたというツイートがまわってきたのだ。
とても長い文章だったが、文章を読むのがわりと好きな私は、早速読み始めてしまった。
読み始めた瞬間、私は緊張した。
なぜか、これはASKA本人の文章だと直感したのだ。
それは、文体からだったのか、彼の精神が現れた内容のためだったのか。
その時点ではまだ、本人かどうかは不明ということになっていたが、私は確信していた。
長時間をかけて読み終わった時、私は完全にASKAの眼をとおして伝わってくる世界に入り込んでいた。
胃に重い拳がめりこんでくるような、お世辞にも快感とはいえない感覚だったが、完全に意識が虜になって逃れられないという感じだった。
彼のくぐり抜けて来た辛い道のりを一緒に歩んだような錯覚がした。
それからブログは消されたが、私は彼がまた新しいブログをアップするだろうと思って、必死でネットの海の中を探しまくった。
果たして彼は色んな大手ブログで日記を更新していた。
むさぼるように読んだ。それらもまた消された。
キャッシュをまとめたページがあるので、それを記念に貼っておく。
https://web.archive.org/web/20160112214836/http://blogs.yahoo.co.jp/windblown_ngc/
普通の人ならおそらく気持ち悪いと思うだろうこれらのブログを、私は、非常に心理描写力に優れた手記か小説に感情移入するように読んだ。
それから、私がCHAGE and ASKAから離れた空白の時代の楽曲を、ふたたび探して聴いてみた。
すると、youtubeで「higher ground」「RED HILL」が一続きになったライヴ動画に巡りあったのだ。
「higher ground」には、楽曲・歌詞・歌唱パフォーマンスともに衝撃を覚えた。
まるでブログの世界から連続しているようだった。
作曲年代をみると、ASKAが自ら薬をやっていたと認めている時期よりもずっと前なので、関係ないのかも知れないが、やはり核の部分にこういう世界観を持っていたということなのだろう。
さらに「RED HILL」は、このライヴで新しい編曲を経て鳥肌もののパフォーマンスに生まれ変わっている。
リアルタイムで『RED HILL』のアルバムが出た時には私はまだファンだったが、当時はさほど強い印象を受けなかったのに。
私は、かつての自分が拙速な判断をくだして、CHAGE and ASKAから離れていったことを悔いた。
一曲や二曲気に入らなかったからといって、その後の発展の可能性を見ようとしなかったことに後悔した。
そして、ASKAの才能が埋もれることのないよう、これからは見守ろうと決意したのである。
なお、私が衝撃を受けたこの動画は残念ながら後日youtubeから削除されてしまったが、一曲一曲分割された形でニコニコのほうで見ることが出来る。